今回は簡易懸濁法についてです。
現在、粉砕法から簡易懸濁法で投与するところが増えている病院が増えていると思います。
簡易懸濁法は粉砕法よりもかなり奥が深く、薬剤師だからこそ気付くことができる場面も多いです。
実は簡易懸濁特有の注意点があることはご存知でしょうか?
それは配合変化です!
今回はその内容について簡単に書きました。
薬学実習生に説明するために用意した写真もあるため是非読んでみてください。
目次
簡易懸濁法とは
簡易懸濁法とは1997年に昭和大学薬学部教授の倉田なおみ先生が考えた方法です。
2006年に調剤指針に記載されて以来は様々な施設で実施されはじめました。
簡易懸濁法を使用する際の目的は錠剤・カプセル剤を剤形のまま内服することが困難な患者において、簡易懸濁法により有効かつ安全な薬物投与を行うことです。
そのため粉砕で服用できない患者や薬剤を安全な方法で投与する方法になります。
適応患者は経管投与、または何らかの理由により、必要な錠剤・カプセル剤の服用が困難と思われるもののうち、主治医の同意が得られた患者に投与が可能です。
適応薬剤は55℃、20mlの温湯に10分以内で溶解(懸濁)し、8Frチューブを詰まらせず通過することができる薬剤が適応薬剤です。
この温度と時間はかなり重要で薬剤によっては高温すぎると固まってしまったり(後に紹介します)、長時間放置すると薬効が低下してしまったりしまう恐れなどがあります。
調整方法
- 薬剤を取り揃えてコーティング破壊が必要なものは、乳鉢、破壊機等で軽く破壊する。
- 1回分(服用分)の内服薬をシリンジなどの容器にまとめて入れる。
- 約55℃のお湯、約20mlを加える。
- 約5~10分間放置する。(必要に応じてかき混ぜる)
- 投与可能温度になっているのを確認して投薬。
推奨はシリンジ「カテーテルチップ型」に入れて溶解・懸濁です。
容器先端部はサランラップ等で塞いで、振とうするとこぼれずに混ぜることができます。
他の容器で行うと薬剤が残ってしまう可能性があるため注意してください。
なぜ55℃なのか
水温は、日本薬局方にあるカプセル溶解温度規定37±2℃を保つため、10分間放置して37℃を下回らない最低温度が55℃のためそのように規定しました。
調製例
ポットの湯(熱湯)2に対し、水道水1を混ぜる。
調整方法は上記の5つとなります。
一包化をすると簡易懸濁しやすいが吸湿性がある薬剤は注意が必要です。
ここで注意して欲しいのは薬剤を「溶かす」事が目的ではなく「崩壊させる」事が目的です。
最終的には懸濁してしまえば問題はありません。
散剤を行う場合でも同様の方法で問題ありません。
ルートフラッシュは通常の水でフラッシュし容器は再利用が望ましいが再利用する場合は次亜塩素酸ナトリウムで1時間浸し、乾燥させてから使用してください。
調整方法から投与後の注意点はこれで以上です。
配合変化について
簡易懸濁法にも注射剤のような配合変化があります。
カテーテルチップ内で起こることが予想される代表的な配合変化を覚えておくと病棟や施設での投与もスムーズに行われると思います。
キレートによる配合変化
これは普通の経口投与でも注意すべきことですね。
たくさんキレートを起こしやすい薬剤はありますが代表的な薬剤は下記の薬剤になります。
- ビスホスホネート
- ペニシラミン
- テトラサイクリン
- 甲状腺ホルモン
- キノロン
上記の薬剤とAl,Mg,Feなどを含有する薬剤と併用するときは別々に簡易懸濁をして、通常の服用方法と同じように投与間隔をある程度空ける必要があります。
pHによる配合変化
これは粉砕法では考えない考え方ですね。
よく使用する薬剤だと酸化マグネシウムが該当します。
酸化マグネシウムは想像通り強い塩基性を示します。
そのため腸溶性であるPPIやエステル化しているプロドラッグ(エナラプリルなど)は容器内が酸化マグネシウムによって塩基性になるため、容器内に薬剤が溶出や加水分解が行われやすくなります。
結果として胃酸で分解されたりプロドラックの意味が無くなったりします。
実際にやってみた
レボドパ製剤と酸化マグネシウムで行った簡易懸濁の結果がこちらです。
酸化マグネシウムにより塩基性になり、レボドパが酸化されてメラニンが形成されるため黒色になります。
薬剤単体の場合は右二つのようにすぐ崩壊して沈澱します。
塩析による配合変化
今までは主薬×主薬でしたが今回は主薬×添加物です。
例を挙げると
塩化ナトリウム×ヒプロメロース があります。
ヒプロメロースは結合剤に使用されたりフィルムコート錠に使用されたりします。
他にもネキシウム®︎カプセルにも使用されています。
ほとんどのカプセル剤はゼラチン製ですが一部ヒプロメロース製のため注意してください。
実際に塩化ナトリウムとヒプロメロースを混ぜるとどうなるかというと
塩析が起こり崩壊しなくなります。
薬剤単体は簡易懸濁可能でも、いざ看護師さんが投与するときにうまくいかないということが起こってしまいます。
薬剤師だからこそ主薬×添加物の配合変化も気付きたいですね(気付くことができたら本当にかっこいいと思います)。
実際にやってみた
ネキシウム®︎カプセルと塩化ナトリウムで行った簡易懸濁の結果がこちらです。
ネキシウム®︎カプセル単体の場合はカプセルの青い色が出てきており簡単に崩壊しますが、塩化ナトリウムと一緒に混ぜるとどんなに振とうさせても壊れませんでした。
ちなみに、1時間ほど放置して、やっと崩壊しました・・・。
100℃で簡易懸濁がダメな薬剤
一般にランソプラゾールは熱湯ではだめと言われています。
理由としては
マクロゴール6000が融解し、温度低下とともに再凝固してチューブが詰まりやすくなるためです。
ヒヤリ・ハット事例収集分析事業も下記のような資料を発行しています。
おすすめの書籍
簡易懸濁の可否をすぐに調べたい場合はこちらがおすすめです。
ジェネリックの場合でも会社ごとに調べてあるためとても便利です。
ただし、薬剤単体の可否のため相互作用については記載されていないです。
こちらは簡易懸濁の配合変化の考え方について詳しく書いてあります。
今回のブログはこの書籍を紹介したくて書いたと言っても過言ではありません。
他にも簡易懸濁の方法が写真付きで書いてあったり配合変化表があったりと基礎的なところから薬剤師だからこそ知っておきたいところまで書いてあります。
個人的にはどちらかだけというよりは両方あったほうがいいと思うので簡易懸濁を扱う(予定も含む)施設はご検討ください。
まとめ
簡易懸濁法は薬局で粉砕しない分かなり調剤の手間が減る画期的な投与方法ですが簡易懸濁だからこそ注意すべきこともたくさんあります。
今回はその一部しか紹介できませんでしたが全て薬剤師だからこそ気が付ける内容ではなかったでしょうか。
今回の内容が皆さんの日々の業務に役立てればとても嬉しいです。