経口、注射に関わらずペニシリン投与の副作用で最も多いのがアレルギー反応です。
薬剤師をしていると「ペニシリンアレルギーがあります。」と言われることがよくあります (なかったらごめんなさい・・・)。
添付文書ではペニシリンアレルギーの既往がある場合、同系統の使用は原則禁忌となります。
抗菌薬治療を行う上でペニシリンアレルギーはかなり治療の幅が狭くなるため厄介なアレルギーの一つです。
しかし、それは本当にアレルギーなのか確認する必要があります。
そこで今回は「ペニシリンアレルギー」ついてまとめました。
目次
アレルギーの分類
クームス分類によるとアレルギー反応は全部で4種類あります。
・I型アレルギー(即時型)
1番注意が必要な反応であり、アナフィラキシー反応がこれに当てはまります。
投与してすぐ起きる反応であり頻脈、気道閉塞、低血圧等の症状が起こり、死亡率は10%もあるためとても注意が必要な反応です。
・Ⅱ型アレルギー(細胞障害型)
I型のようにすぐ起きるわけではなく1週間程度経ってから起きるのが一般的です。
腎機能低下、発熱、発疹などが主な症状です。
・Ⅲ型アレルギー(免疫複合型)
血中で抗原と抗体がくっつき複合体を作ることで発生するアレルギー反応です。
治療開始から症状出現まで1週間以上かかり吐き気、めまい、関節炎などの症状が起こります。
投与期間が長期になると起こる反応です。
・Ⅳ型アレルギー(遅延型)
かなりマイナーなアレルギー反応ですが接触系皮膚炎やスティーブンジョンソン症候群(SJS)などを起こすアレルギー反応です。
SJSは脱感作できないことされているため発症した場合は異なる薬剤を使うのが妥当です。
ペニシリンアレルギー
ペニシリンアレルギーの頻度は5%と言われています。
(私の体感だともっといるイメージですが「20人に1人しか起こさない」と考えるか「20人に1人も起こす」と考えるかはあなた次第です。)
I型アレルギーは年月と共に過敏性は低下し5年以内に50%、10年以内に80%の患者の過敏性が消失するといわれています。
以前にアレルギーがあったとしても、長期間使用しなければ再度使用できる可能性もあります。
セフェム系も交差反応を示すと考えられており、その使用が控えられることが多いです。
その理由はペニシリン系、セフェム系の化学構造が類似しているためです。
化学構造は以下の通りです。
ペニシリン系
ペニシリンと半合成ペニシリン(アモキシシリン)との交差反応の発生率は1.3%未満です。
ペニシリン系抗菌薬アレルギーの交差性は赤く囲ってある6 位側鎖構造の依存度が高いと言われており類似性が高い場合は交差反応を起こしやすいです。
具体的な例をあげるとアモキシシンとアンピシリンは交差性が高く、アンピシリンとピペラシリンは同じペニシリン系でも交差性が低いと考えられています。
セフェム系
ペニシリンとセフェム系との交差反応の発生率は3%です。
世代間では第一・第二世代のセフェムの方が交差反応を起こしやすいとされています。
またセフェム系では7 位に類似構造をもつセフェム系に交差性が存在すると考えられています。
具体的にはアンピシリン、アモキシシリンはセファクロル、セファレキシンと構造式が似ており注意が必要です。
アレルギーの交差性は、母核構造にも一部依存しますが、主に3位や7位に類似構造をもつと高い交差性を示すと考えられています。
ここで問題となるのは3位が異なるからといっても7位が類似構造を持てば交差性は高くなるという点です。
具体的には第3世代(セフタジジム、セフトリアキソン、セフォタキシム)と第4世代(セフェピム、セフォプラゾン)では7位の側鎖構造は同じ、もしくは類似構造であり避けることが望ましいとされています。
そのためアレルギーによって薬剤変更を行う際は世代で考えることは避けるべきです。
カルバペネム系
ペニシリンとカルバペネム系との交差反応の発生率は1%未満です。
カルバペネム系はペニシリン系と構造が類似しており以前は交差性が高いといわれていましたが、近年の報告ではペニシリンアレルギーがあると申告した患者のうち、メロぺネムまたはイミペネムの投与でアレルギーが起きたのは6~10%程度との報告もあり交差性が低いことが示唆されています。
交差アレルギー表
簡単に側鎖の類似性についてまとめたので参考にしてください。
ペニシリンアレルギー患者に出会ったら
ここまでペニシリンアレルギーについて記載しまいたが実際に出会った際の薬剤師として行うべきことを説明します。
- いつ発症したのか
- 使用した薬剤
- 出現した症状
- 服用から発症までの時間
最低でも上記の4つを聴取する必要があります。
前述しましたがペニシリンアレルギーはⅠ型アレルギーの場合は5年以内に50%、10年以内に80%の患者の過敏性が消失するといわれています。
かなり前の投与による発症の場合は再度使用できる可能性が高いです。
もちろん1度発症しているため再度出ていないかなどのモニタリングは必要であり、
症状についても聞いてみると意外と「下痢です。」ってことはザラです。
(服薬アドヒアランスに大きく関わってくることは間違い無いですが・・・)
ペニシリンアレルギーの既往がある患者に抗菌薬投与する場合は
マクロライド系、キノロン系、テトラサイクリン系、アミノグリコシド系
から適切な抗菌薬を選択しましょう。
今は抗菌薬の種類がたくさんあるため、攻めた抗菌薬の選択をする必要はないと私は思っています。
もしダメな理由があってβラクタム系薬剤を選択しなければならない場合は上記の表から側鎖が異なる薬剤を選択することをおすすめします。
最後に
薬剤師をしているとペニシリンアレルギーはいつか出会うと思います。
もし出会ったとしても適切な対処ができるように頭の片隅に残っててくれると嬉しいです。