抗MRSA薬の使い分け

メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)は1961年に初めて報告されてから現在に至るまで世界中で脅威となっている菌の1つです。

皮膚軟部組織感染症や肺炎、手術部位感染症など市中・入院問わずMRSA感染症に感染することがあります。

そのため適切な抗菌薬を選択することを目的として、今回はよく使用する抗MRSA薬についてまとめました。

最後に今回の記事を簡単にまとめた資料を添付しますので病棟業務などでご活用ください!!

バンコマイシン(VCM)

特徴

VCMは安価のためMRSA感染症では1番多く使用される薬剤です。

PK-PDはAUC/MIC、通常のAUC/MICの薬剤は1日3〜4回程度投与しますがVCMは1日1〜2回投与を行う薬剤です。

持続投与をした場合、腎機能障害が出現しやすいため1〜2回の間歇投与が一般的です。

そのため腎機能や血中濃度に注意が必要になります。

2021年発出のTDMガイドラインではVCM使用患者すべてに初期ローディングが推奨される予定です。

TDMをする際はトラフ値とピーク値とAUC/MICが重要!!

これらの値を確認することで治療効果の担保と副作用対策が可能となります。

ちなみにAUC/MICは日本化学療法学会から提供されているTDMソフトで確認することができます

また、トラフ値とピーク値が適正値でもAUC/MICが低値となることがあることを覚えておく必要があります。

それはMIC値が2μg/mLの時です。

MRSAに対する2μg/mLは「感受性あり」となっているがVCMでは無効例が増えています。

そのため重症例でMIC値が2μg/mLの場合は異なる抗MRSA薬を使用することが推奨されています。

最後にVCMは経口薬がありますが分子量が大きく吸収されません

その特性を利用して経口薬はC.difficile腸炎の治療に使われることがあります。

副作用

主な副作用はredman症候群、腎障害、耳毒性です。

redman症候群は急速なVCMの点滴投与によりヒスタミン遊離作用が起きて出現する反応であり、

顔、首、上体幹部、背中、腕など主に上半身に紅斑がみられます。他には頻脈、血圧低下、血管性浮腫などの症状を伴うこともあります。

VCMの急速投与が原因となることが多いため、十分な点滴時間(2時間程度)を取ることで発現を回避することができるがそれでも5%は起こるため投与時の患者の観察は必須です。

腎障害はトラフ値が20μg/mL以上の時に起こしやすく、他にフロセミド・シクロスポリン・アムホテリシンB・ピペラシリン・タゾバクタムの併用が腎障害を起こしやすいことがわかってきました。

まとめ

排泄:腎(約90%)

対象:グラム陽性菌

主な副作用:redman症候群、腎障害、耳毒性

殺菌的(腸球菌には静菌的に作用)

体内分布は比較的良い(腹水、関節)が胆管、髄液には移行性が悪い

PK-PDはAUC/MIC

推奨採血タイミングはピーク値とトラフ値

MICが2μg/mL以上は治療域の到達が難しい

内服薬は分子量が大きく腸管から吸収されないためC.difficile腸炎に使用される

リネゾリド(LZD)

特徴

VREに対して使用される薬剤として承認されたが近年耐性菌の出現も報告されたためより一層適正使用が重要な薬剤です。

組織移行性が他の抗MRSA薬より良いため呼吸器感染症や皮膚・軟部組織感染症では第1選択としてよく使われます。

ですがバイオフィルムの透過性は低いため人工物感染症には使用しにくいです。

この薬剤は経口薬のバイオアベイラビリティは100%のため経口摂取が可能の患者であれば医療経済的にも内服薬に切り替えが推奨されますが、手軽さゆえ安易に処方されないように注意が必要となります。

副作用

副作用としてセロトニン症候群、末梢神経障害、骨髄抑制があります。

注意すべきは骨髄抑制です。

14日以上の使用は骨髄抑制が増加するとの報告があり、長期使用が予想される場合は薬剤の変更の検討が必要となります。

また、高齢者・腎機能低値の場合もリスク因子となるため要注意。

まれにセロトニン症候群が起こり、薬剤師としてはセロトニン作動薬との併用時は症状の発現のモニタリングを行うことが求められます

まとめ

排泄:肝

主な副作用:セロトニン症候群(SSRI禁忌)、末梢神経障害、骨髄抑制(2週間以上の使用の場合)

静菌的

バイオアベイラビリティ100%

経口薬が可能な場合はできるだけ錠剤の方がいい(価格的に)

院内肺炎に効果

組織移行性が良い

ダプトマイシン(DAP)

特徴

2011年に新しく承認された抗MRSA薬で過去にCPKの上昇により開発中止の過去があります。

海外でMRSAに対するVCMのMIC値上昇が問題となり再度研究が進み発売されました。

バイオフィルムへの高い透過性や1日1回投与でTDMが不要など、VCMより使いやすい点が多く、各種感染症に対して高い推奨となっています。

しかし、肺のサーファクタントで失活するため呼吸器感染症には使えないことや容量不足、人工物感染症などで容易に耐性化しやすいなどの欠点はあります。

副作用

副作用も特徴的です。

1つ目は好酸球性肺炎です。

高頻度で出現し重症の場合はステロイド治療が必要となります。

そのため投与時は呼吸器症状の確認が必要となる薬剤です。

2つ目は横紋筋融解症です。

発現率は用量依存性で増加するため、スタチンなどの併用は要注意です。

投与中は定期的なCPKの測定を行う必要があります。

まとめ

排泄:肝

主な副作用:CPK上昇、末梢神経障害、肝障害

殺菌的

肺炎には使用不可

肺のサーファクタントによって失活

分子量が1620.67と大きい

錠剤はなし

カルシウム依存性でカルシウムがあるところに効果を発揮する

1日1回投与

バイオフィルムへの高い浸透性

最後に

最後に今回解説した抗MRSA薬はよく使用すると思われるバンコマイシン、リネゾリド、ダプトマイシンについて解説しました。

他にもテイコプラニンなどの薬剤もあるためいつか解説したいと思います。

また、今回説明した3剤のまとめた資料もUPしましたので病棟業務などでよかったら活用ください。

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